版画は、原版を作り、それを使って作品を刷る技法です。こう聞くと、刷られた作品はすべて同じに思えるかもしれません。しかし、版画の複製は基本的に手作業であり、個々の作品が微妙な個性を持ちます。
絵を描く技術はもちろん、版画を作成する技術そのものが芸術的な評価の対象となることもある、奥の深いジャンルです。
以下に、代表的な版画の技法をまとめます。
リトグラフ
平らな石版やアルミ板に油性の画材で直接絵を描き、それを複製する技法です。水と油が反発する性質を利用し、版全体に水を塗った後、インクをのせると描画部分にのみインクが付着します。これを紙に押し付けて印刷を行うわけです。
絵画的な特徴は、クレヨンで描いたような自然な線や、柔らかいグラデーション、繊細なタッチを表現できる点です。また多色刷りも可能で、画家の直接的な描写の味わいを損なわずに複製できることから、19世紀以降、多くの芸術家に好まれました。
エッチング
金属板(主に銅板)に腐食液を使って凹みを作り、そこにインクを詰めて印刷する技法です。まず金属板全体にワニスを塗り、そこに針で絵を描きます。この部分のワニスが剥がれ、その後腐食液につけると描線部分だけが溶けて凹みます。
インクを詰めた凹部から印刷されるため、線の強弱や濃淡の表現が豊かで、特に細い線から太い線まで自在な表現が可能です。レンブラントの銅版画で知られるように、明暗の対比がドラマティックな効果を生み出せることが芸術的な特徴です。
シルクスクリーン
細かい網目状の布(シルクやナイロン)を枠に張り、版を作る技法です。描きたい絵の部分以外はインクを通さないように塞ぎ、残った部分からインクを押し出して印刷します。
製版方法には、手作業でのマスキングのほか、写真製版による方法もあり、精密な図案の複製が可能です。大きな特徴は、様々な素材(紙、布、プラスチックなど)に印刷できる点と、インクの重ね刷りで鮮やかな発色が得られることです。アンディ・ウォーホルの作品で知られ、現代アートからTシャツなどの商業印刷まで幅広く使用されています。
木版画
小学校で習った人も多いかと思います。板に彫刻刀で彫りを入れ、凸部分にインクを載せて印刷する最も古い版画技法です。原画は板に直接描くか転写し、不要な部分を彫り落として版を作ります。
特徴は力強い線と面の表現で、彫刻刀の跡が独特の味わいを生みます。日本の浮世絵に代表されるように、多色刷りも可能です。木目の自然な表情も作品の一部として活かせ、素材感を重視する現代アーティストにも好まれています。手作業による彫りの過程そのものも創作の重要な部分となります。
モノタイプ
ガラスや金属の平らな板に直接絵を描き、一回だけ刷る技法です。「モノ(mono)」は「一つの」、「タイプ(type)」は「型」を意味し、文字通り一点物の版画となります。
制作方法は、版に油性インクを薄く伸ばし、そこから布や筆でインクを拭き取って明部を作ったり、逆に筆でインクを足して暗部を作ったりして描写します。まだインクが湿っている状態で紙を載せ、プレス機で刷ります。
芸術的価値は、版画でありながら一点物の絵画のような自由な表現が可能な点にあります。インクの濃淡や筆致の繊細な表情が、そのまま作品の個性となります。
エドガー・ドガなどの画家が好んで用い、即興的で生き生きとした表現が特徴です。二度目以降の刷りは著しく薄くなるため、通常は一回限りの刷りとなることも、この技法の独自性となっています。
※当サイトでは、専門知識に長けたサイト管理者の監修のもと、編集部内で独自基準による徹底的なリサーチを行い、客観的・適正な情報発信を行っております。